蕪Log

同人サークル「蕪研究所(ブラボ)」だったり、日常のよしなしごとだったり。あらゆる意味で日記です。

中川多理個展 幻鳥譚に行ってきました

コミケット91の原稿をひとまず脱稿したので、行きたかったところにいろいろ足を運んでいます。

今日は、パラボリカ・ビスで催されている幻鳥譚東京に行ってきました。中川多理先生作のお人形の展示です。

www.yaso-peyotl.com

人形の外観

中川多理先生のお人形を初めて間近に拝見しましたが、以下の四点が特徴的でした。

  • 肋骨が浮き、皮が裂けるほどに痩せた体躯
  • 四肢の巨大な球体による省略
  • 腹部の球体化
  • 目が合う

パラボリカ・ビス1F、むき出しのコンクリートで囲まれ冷え切った展示室。冬の冷気のためだと即座に断じることが出来なかったのは、お人形たちが持つ上記の特徴から来る、死に瀕した温度のせいかもしれません。

今にも折れそうなほどにか細く、息も絶え絶えな様。小豆を豆乳に溶いたような色をした、鬱血して血色の悪い肌。

体は肋骨がはっきりと浮き上がるほどの痩躯。そして開きも閉じもしない弛緩した唇。彼女らが生命を持つ少女であるとするならば、一目見てそれが風前の灯火だと分かる様子です。

彼女らのいくつかは、腹部をぷっくりとした球体に置き換えられていました。しかし充足を持たぬ彼女らの表情。そこからは欠食し栄養失調となった、腹だけが異様にふくれた幼い子どもが想起されます。

そして彼女らは一様に、こちらに目を合わせてくるのです。何を訴えかけようというのか、最後の光明を賭けるような、か細くも必死な目です。

思わず手を伸ばして抱きかかえたくなるような、必然的な引力を持ったお人形でした。会期が残り一週間と言うこともあってか、ほぼ全てのお人形が売約済みであったのも頷けます。

人形が見つめ返すと言うこと

私が人形を見るとき、胸の内にはいくつかの文脈があることを自覚しています。

  • 無制限の受容と吸収という特性に向けての哀願
  • 観測者の反照
  • 体の自由が利かぬことへの憐憫
  • 征服感に基づく愛玩

中川多理先生の人形はやせこけていて、いわば「飢えた」と言う状態を想起させる人形です。

しかしその飢えを受け入れ、満たすはずの腹部が、球体に置き換えられている。人間の素材として存在しないものです。これほどに飢えを主張しながらも、それを満たす器がどこか別の世界に消え去ってしまっている。

終わりのなく耐えがたい苦悶がそこにはあります。

四肢の球体への置換はまた、創造する器官である腕、探求する器官である足を、単純な喪失としてはもちろん、夢幻へと帰すこと。二度と手に入らぬ場所へと呑み込み、消失させることを意味していると感じます。

一切の希望に繋がる手段を、彼女らは断たれています。

その彼女らが、唯一残った瞳をもって、私たち人間を見つめている。

嗜虐的な想いが胸に浮かびます。心地よい感覚です。

しかし同時に、これほど不自由な彼女らの様子が映し出すのは、我々が多かれ少なかれ抱えている飢餓、即ち心満たされぬ状況です。

そこで、彼女らに共感が発生します。これも心地よい感覚です。彼女らになら私自身を託せる。逆もそうだと。

肋骨を覆う皮膚が破れがらんどうの胴体が見えるようなものもある、グロテスクな人形群でしたが、それでも彼女らが持っている不思議な愛着の引力は、私にとってはこういったものでした。

来て良かったなと心から思えました。素晴らしい人形でした。

(今回展示の主体である幻鳥というモチーフについては、その最後に残った瞳の力をすら、鳥を模した骨格マスクに置き換えてしまうと言う本当に容赦の無いものでした。全く出口のない絶望というのも素敵だなと思いましたが、流石に少し胸が痛くなりました)

人形展でデトックス

こうして人形を拝見できて、心が洗われるようでした。無尽蔵に思っていることを投げつけられるので、言葉に出せない気持ちなどを全部持ってくれるのですね。ありがたい相談相手です。

会期は来年の1/9までということで、チャンスがあればもう一度行けたら良いなと思いました。

初見のアニメを二話から見ると創作の役に立つかも知れない話

仕事が終わって帰宅するとおおむね11時頃になり、自由な時間が大体一時間ほどある計算になります。

少しでも有意義に過ごそうと、録画して貯めておいたアニメを見ようと思い立ちました。

そこで、創作についてのちょっとした気づきがあったので、メモを残しておきます。

必要な導入を丁寧に行わないと、商業作品ですら意味の分からないポエム集になる、と言うことを身を以て知ったというエントリーです。

その物語、二話から始まっていないか?

2013年放映のアニメ「境界の彼方」がDVDにダビングした状態で残っていたので、それを再生してみましたが、始まってすぐにどうも様子がおかしいぞと思いました。

開幕から、ピンク色のメガネ娘が、真紅の刃を持って、包帯のようなもので体が出来た敵と戦っています。

部屋でまごついている男の子はやけに訳知り顔です。敵のことを平然と妖夢と呼び、目を狙えと弱点まで指摘します。

女の子はそれを何の疑いもなく了承し、実行に映しますが、突然のカットインと葛藤が描かれ、敵を倒すことを何度も躊躇います。

もどかしい展開がいくらか繰り返され、虚しい男の子の呼びかけを何度も経て、女の子がやっとこさ敵を倒したと思ったら、チカラを使った後は危険なので近寄るなと言う。男の子はそれに対し、不死身だから大丈夫、と言います。

だめだ、訳分からん……

と困惑すること数分、ことの顛末は、第一話を録画し忘れたままほっぽっていて、見るまで忘れていたということでした。リスか何かかな私は。

……と第二話を見終わって感じたのが、避けるべき説明と必要な導入の違いです。

よく、「物語の冒頭から説明だらけだと萎える。物語に引き込む描写を詰め込むべき」と言われます。

しかしそれが、単に用語の説明を省き、たださも当然のように流すと言うことではないのだと、はっきりと分かった瞬間です。置いてけぼりにされたことをはっきりと感じました。

お時間のある方は、レンタルビデオ店で適当なアニメの1巻を借りてきて、二話から見てみると、驚くほど反面教師になってくれると思います。目が覚めた思いでした。

悪例を挙げて自らを矯めるというのは、ケーススタディとなってしまいネガティブですが、それでも自戒の指針として、とても役立ちます。

それはそれとして栗山さんは愛らしい

ちなみに境界の彼方そのものは、その後の展開で物語要素がきちんと補完されてきたので、台詞回しが何となくきざっぽい感じを受けつつも楽しめています。仕事上がりの余暇として、これからしばらく付き合うことになりそうです。

tv.anime-kyokai.com

デザインフェスタ44に行ってきました。

寒くなってきた今日この頃、原稿の進みも悪いので、とりあえず筆は放り出して楽しみにしていたデザインフェスタに行ってきました。

デザインフェスタとは?

アートイベントを標榜する、様々な形での作家が集まり、作品を販売するイベントです。

出展が3400ブース、12000人(見込み)もの、その道のクリエイターが集結しています。

東京ビッグサイトで催され、その規模は年々拡大しています。通例、土曜日、日曜日と二日間の開催です。今回の開催では、西ホールを1F、4Fともに貸し切る盛況ぶりです。

現状、真夏のデザインフェスタを含めると、年に3回の開催となっています。

アートイベント デザインフェスタ | Art Event Design Festa

どういう雰囲気のイベント?

いわゆる即売会とは少々景色が異なり、プロを歓迎、と言うよりも、お金が取れるレベルのクオリティを参加に要求している節があります。

そのため、出展されているものは商品として通用する品質であり、そういう意味では使いやすい品物を選びに行くことが出来ます。

アートイベントと銘打たれていますが、作品の幅はイラストに留まらず、皮革製品や仮面、時計といった実用品から、ガラスペン、宇宙ガラスといった幻想的な雰囲気の嗜好品まで多岐にわたります。

総じて、「お店には売っていない欲しかった品物」を掘り出しに行く蚤の市と言った、楽しいイベントです。

以下、デザインフェスタの歩き方紹介を兼ねたレポートをつらつら書いていきます。

イラスト描きさんのブースではポストカードが手軽で嬉しい

アーティストさんから物を買うとなると少しハードルがあるような気がしますが、絵描きさんの多くはポストカードやクリアファイルと言った、ご自身の作品を廉価で手にとってもらえる媒体を用意されています。

気になる作家さんが見つかったら、軽々にお名刺とポストカードを二、三枚購入して、フォトアルバムに入れて眺め悦に浸ると、安価で幸せになれます。自分の好みだけのポストカードアルバムを作りましょう。

また、お名刺の多くにはブログやSNSへのリンクが入っているので、今後の活動を追いかけられるようになります。名刺そのものも、ホルダーに入れて保管したくなるくらい大変お美しいです。

今回購入した作家さんへのアクセスを以下にまとめておきます。

錦眼鏡

twitter.com

twitter.com

ひろたみさき さん

ブースそのものがアートになっている、とか

歩いている間に、一見、真っ白なブースがありました。

なんだろう、と思ってもう一度見直した瞬間に、そのブースに込められたあまりの寂寥に、胸を打たれたのです。

厳密には、そこは真っ白な壁で囲まれたブースに、女子校の風景を寂しげに描いた絵画が飾られている。色合いは淡く、くすんでいました。

そこに、同じようなねずみ色のモッズコートに身を包んだブースの主が、俯いて一心に文庫本を読みふけっていたのです。

浮き世離れした彼女の姿。それが、遠い記憶を描いたようにかすんだ絵画の印象と結びつき、はっとさせられました。遠い夢想の世界への憧憬とでも呼ぶべきでしょうか。絵画だけでは、その存在が夢幻の存在ですから、もう一押し欲しいところです。そこに作家さんが自らの体を用いて、最後のピースをはめた。そういう印象を受けました。

結局ブースの主はその後泡沫の存在だったかのようにいなくなってしまい、確認は出来ませんでしたが、こういった極端な例でなくとも、ブースのディスプレイそのものに作家さんはとても力を入れています。

同人者として勉強になるのはもちろん、特段ディスプレイを普段する機会が無くとも、眺めているだけで楽しめると思います。

パフォーマンスを楽しむ

その場でアートしている様子を見せてくれるブースもあります。いわゆるライブペインティングですね。

今回見た中で衝撃的だったのは、とある書道家さんのパフォーマンスでした。

黒一色のボードに、真っ赤な絵の具で漢字がびっしりと敷き詰められている。

その数は二千を軽く超えたでしょう。言葉にするとそれだけなのですが、その筆致に鬼気迫る勢いがありました。

尋ねれば、そういった爆発力のある文字で観客にリーチしたいのだとおっしゃっていて、なるほどエネルギーをもらえたと言う印象でした。

そういったパフォーマンスが、そこかしこで行われています。様々なイラストのメイキングが見られたり、以下に挙げるような変わり種を楽しんだり出来ます。

即興書道

書いて欲しい文字を伝えると、ミニ色紙に書いてもらえます。

作家さんが気さくで楽しい方なのですが、Webでの宣伝を一際されない方だと言うことです。

緊縛ショー

後述の暗いエリアで行われている、観客を着衣の上から縛るショーです。

物欲へのあくなきチャレンジ

イラストのゾーンを抜けると、残りはざっくり分けて、雑貨と「暗いエリア」に別れます。

この、雑貨の領域がくせ者です。何がって、じっくりブースを見て回れば、何かしら物欲の琴線を弾くものがあることなのです。

アクセサリー系、ぬいぐるみ、ミニチュアサイズのスイーツ、カバン、などなど、なかなか普段赴くようなお店ではお目にかかれないものに出会うことが出来ます。

僕の物欲が揺らいだ(あるいは、陥落した)ものを厳選して挙げます。

ガラスペン

ペン先がガラスで出来たインクペンです。

メガネカフェ

メガネが好きすぎてあらゆるものにメガネをデザインしてしまった人たちのブースです。

めがねふきを買いました。

twitter.com

ハンドメイド系時計

A StoryやJHAといったところに卸されているハンドメイド時計が、作家さんの手ずから例年出展されています。

なんとも、若さをくすぐりながらシックなデザインをしていて、陥落しました。

革製品(特に、カバン)

正直、ここに来る前に時計を買っていなかったらこっちで鞄を買っていたと思います。

www.britishbag.com

「暗いエリア」

会場で、八分の一ほどのスペースは照明が絞られた「暗いエリア」です。

照度的な暗さに留まらず、このエリアに配置されているブースはややアングラよりの展示を行っています。

そこでは、自動人形に出会いました。目を左右に動かし、口を僅かに開くのみの簡易なものでしたが、周りが暗いことと、元々の不気味な造形が相まって、とても楽しめました。

あと、人形+フェティッシュとか、両性具有ヌードとか。詳しく書くと全年齢でなくなってしまうので控えますが、平気な方にはとても見応えのあるエリアです。

見ているだけでとても楽しいイベントです

ということもあり、品物を物色しに行くだけでも、見ていて飽きないイベントだと思います。

休日がぽろりと空いていたなら、掛け値なしにおすすめです。

今回、同伴者のドタキャンによってデートのたんこぶと化してついて行くことになりましたが、カップルの方はその後いい感じになったそうなので、逢瀬にも使えるのではないでしょうか。幸い、身につけて楽しめそうなものには男女ともに事欠かないし、オタク色も限りなく薄いです。

次回の開催は2017年5月27日(土)・28日(日)ということで、今から楽しみにしています。